カムチャツカ半島東北部のイヴァシュカ式土器

カムチャツカ半島の行政区はかつて,北側のコリャーク自治管区と,南側のカムチャツカ州に分かれていた。2007年に両者は統合され,現在はカムチャツカ地方となっている。私自身にとって夢のひとつであった旧コリャーク自治管区圏での考古学的な調査は,2012年に実現した。

西海岸のペンジナ湾も魅力的ではあったが,最終的に調査例が少なく先史文化の内容があまり判明していない東海岸をターゲットとした。対象としたのは,多くのコリャークの民族誌にも登場するカラガ湾の沿岸である。カムチャツカ半島の土器は,文様がないか,あったとしてもきわめてシンプルな土器が多い。しかし,カラガ湾沿岸とその南に隣接するイヴァシュカ川流域だけは,縄の圧痕にくわえて刺突文や貝殻文などを多用する派手な土器(イヴァシュカ式)が出土することが知られてきた。ただし,この土器の年代はおよそ紀元後二千年紀の半ばくらいとの予想があっただけで,詳しいことはわかっていなかった。

わたしたちの調査の結果,この湾の沿岸では基本的にすべての遺跡で土器が多数出土し,その年代は古い段階(およそ11〜13世紀)と,新しい段階(およそ15〜17世紀)に区分されることが判明した。このうち,イヴァシュカ式は新しい段階に含まれる。イヴァシュカ式の起源地(イヴァシュカ川流域)で13〜14世紀ころに発生したこの土器は,15世紀になってカラガ湾沿岸にも分布域を拡げたのである。だが,カラガ湾北岸よりも北では出土が知られておらず,かなり明確に分布の北限を線引きできる。

カラガ湾沿岸には多数のガラディシチェ(城砦遺跡)が存在するが,イヴァシュカ式の分布はこの地域の集団間の緊張関係と関係があるのだろうか。あるいは,W・ヨヘルソンが指摘するように,セイウチが多数生息したカラガ湾へやってきたハンターたちの存在を土器の分布が示しているのだろうか。すぐには答えは出ないが,この地域の歴史を考えるうえで興味深い問題である。

Takase, K. 2014 Radiocarbon Dating of Pottery from Karaga Bay Coast, Northern Kamchatka, Russia, Journal of the Graduate School of Letters, 9, pp.1-27, Graduate School of Letters, Hokkaido University.

http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/54956/3/TAKASE.pdf

The article above is a result of study funded by JSPS KAKENHI Grant-in-Aid for Young Scientists (A) (Grant Number 22682008).

イヴァシュカ式土器
ガラディシチェであるカラガ10遺跡出土土器の一部。多くが縄の圧痕のみによる装飾をもつなかで,上段中央の貝殻文や刺突文をもつ異質な土器がイヴァシュカ式の破片。