概要
研究代表者
高瀬克範(研究統括,サンプリング,骨コラーゲン同位体分析)
研究分担者
西田義憲(北大理学研究院,サンプリング,キタオットセイDNA分析)
蔦谷 匠(総研大,サンプリング,アミノ酸同位体分析)
大河内直彦(海洋研究開発機構,アミノ酸同位体分析)
研究協力者
Ben Fitzhugh (U of Washington,北米・千島との比較)
Michael Etnier (U of Western Washington,北米・千島との比較)
Hope Loiselle (U of Washington,ニホンアシカDNA分析・骨コラーゲン同位体分析)
七座有香(Simon Fraser University,マダラDNA分析)
目的 北海道周辺における過去7000年間の海洋生産性の長期変動の復元とその人類への影響の解明
背景 ここ数年,北海道ではシロザケの漁獲量が減少しています。シシャモ,スルメイカやサンマはその前から大きく減少していました。これに対して,1950年代に一度ほぼとれなくなったニシンの個体数は回復しており,食卓にのぼる機会も増えています。19 世紀に絶滅の危機に陥ったキタオットセイも,国際的な保護の結果,上限に達しているいわれるほど個体数は増えています。海洋資源の量は一定ではなく,さまざまな要因で変動しているのです。特定の種の個体数が多いということは,その種が食べる餌の量が多いことを意味します。餌となるより小さな魚がたくさんいるだけでなく,その小さな魚が食べる動物プランクトンや,さらにその餌となる植物プランクトン,これらすべてが豊かになっていた時期に,食物連載の上位捕食者が増えるのです。こうした海洋生産性の高低に影響を与えるのは,北太平洋ではアリューシャン低気圧の強弱とそれによって引き起こされる海流の強弱などであることがわかっています。
一方,ここ15年ほどの考古学研究によって,北海道の住民は過去7000年間にわたって,海洋資源にきわめて高度に依存し続けてきたことがわかってきました。タンパク質の2/3〜3/4以上は海産物に由来しており,長期にわたってこれほど高く海産物に依存する地域は日本列島では他にありません。とくに,キタオットセイなどの鰭脚類と魚類が重要な食料源でした。しかし,過去数千年間のあいだには,これらの資源もまた増減を繰り返していたはずです。だとすると,海産物の資源減少は人類社会にも大きな影響をあたえたに違いありません。
しかし,鰭脚類や魚類が過去7000年間のあいだにどのような増減の歴史をたどったのかは,まだ全く明らかになっていません。もっとも大きな要因は,こうした問題に取り組んできた生態学では博物館などに保管されている標本の同位体分析やDNA分析によって過去の海洋生産性の変化を研究するため,通常,数十年前しか遡ることができないのです。しかし,考古学的な遺跡から出土した動物骨を使えば,7000年前まで遡って海洋生態系の歴史にアプローチすることができるのです。この研究の特徴は,遺跡から出土した資料を使って,長期にわたる生態系の歴史を解明しようとする点にあります。この試みは,今後の海洋資源の利用方法の改善にも有益な情報をもたらすことが期待できます。
方法 遺跡出土動物骨の同位体分析(骨コラーゲンの炭素・窒素・酸素安定同位体分析,アミノ酸窒素安定同位体分析)とDNA分析(個体数の変動,回遊ルートの変化などの解明)。
資料 マダラ,キタオットセイ,ニホンアシカの出土骨
図1 候補となる遺跡の位置
表1 候補となる遺跡の時期